通学路のルート変更はNG!?集団登校の本質とは

通学と高齢者の事故 子ども

あることで当時の私は悩んでいた。それは、小学生になる娘の登下校のことである。

わが家の周辺に大きな国道が走っていることもあり、べらぼうに交通量が多い。乗用車はもちろん大型トラックもビュンビュン。交差点では東西南北から昼夜を問わずどの車もけっこうなスピードを出す。

こんな状況の中を、1年生の娘は、はたして歩いて登下校できるのだろうか……!?

爆走!高齢者ドライバー

さらに言えば高齢者ドライバーがやたらと多い。見ているこちらのほうががヒヤヒヤするドライビングテクニックを披露しなさる。

先日、向かいの商業施設の駐車場で、ブレーキとアクセルを踏み間違えあそばしたご老人が、スタントマンも真っ青な猛スピードで、ものの見事にバス停とベンチをぶっ壊しておられた。支柱などはありえない角度にひん曲がりバス停の屋根は落ちていた。たまたま待ち合いにもベンチにも人がおらず事なきを得たが、もしもベンチに人が座っていたら……誰かバスを待っていたら……と思うと、想像するだけで青くなる。

「エンジンを切ってください!」という声が耳に入っていないのか、大破して止まった運転席でいまだアクセルを踏み続け、エンジンをフルスロットルしている視線の定まらない高齢運転手を見ると……ドン引きである。

余談であるが、この商業施設でのご老人の破壊行為は今年に入ってすでに2回起きていて、そのどちらもたまたま目撃していた私。間近で見ると高齢者の運転はマジでやばい……。

こんな老人天国の道路の中を、ひとりで歩いて学校へ行かせるなど、私にはできない……ムリだ。

集団登校があったのね!

そうこうしているうちに入学前説明会があり、そこでもらった配布物の中に1枚のプリントが入っていた。

『集団登校について O小学校/PTA』

そこには、集団登校の意義。時間厳守、集合場所では静かに、といった注意事項。事故が発生したら。など事細かに文章が並んでいる。「本校は集団登校を取り入れているから、みなさん参加して登校しましょう」とある。

なるほど。集団登校なるものがあるのか。ほうほう。近所の子どもたちが1列に並んで、保護者が交代で引率するのかな。大人がいれば横断歩道も安心だし、ふざけて道路にはみ出したときも注意してもらえる。これは安心ではないか!

さっそく申し込み。うちに帰ってからも「集団登校があるなら安心だね」「あなたはいつも考えすぎなんだからぁ」「そうだね、ごめんごめん」アハハ、ウフフと妻と語り合って安心した。

そして登校初日を迎えた。大人の引率はなかった。

いろいろ怖い!子どもたちだけの通学

さっそく班長の6年生が「今日からよろしくね。じゃあ行くよー」と先頭に立った。

子どもたちだけで行くのかぁ

めちゃくちゃ心配だったから、私も学校までついていってみた。まあ、通学路の様子や朝の交通状況なども知っておくいい機会だ。

ここが通学路!?せまっ!

まずは大きな国道を横断。朝は通勤で急いでいるのか余裕のない車が多い印象。そのためか右折車は直進車が少しでも途切れたら、今のうちや!と言わんばかりに強引に曲がってくる。横断歩道の手前で初めて横断者に気づくドライバーもいる始末。おまけに子どもたちの歩みはの~んびり。急がないし、歩行者信号をちゃんと見ているのか見ていないのか。青が短いのもあり、先頭の6年生が渡り終わっても最後尾はまだ渡りはじめ。途中で点滅しはじめるし、ここはなかなか難所だ……。あぁ危ないなぁ。

そうこうしているうちに無事国道を渡った。このあとはずっと歩道がある道だけ。あとは大丈夫だ。ほっと胸をなでおろす。

と思っていたら、先頭の6年生が左折した。

(あれ!?ここの角ではなくて、もう1ブロック先を左折すれば、確かずっと歩道がある道だぞ。ここで曲がるの!?)

そう、左折した先は極端に狭くなる道なのだ。軽自動車は離合できるが、普通車だとすれ違うとき片方が待つ必要があるような狭さだ。もちろん歩道はない。子どもたちは道の端ギリギリを1列に歩いていく。

これはあぶねーだろ!

ここでもドライバーは急いでいる。朝の通勤はどうしてもスピードが出がちだ。あのスピードでは、大人でもすぐ横を走られるとちょっとこわい。雨の日はこれで傘もさすんだよね!?いやいやあぶねーよ。

ふと見ると……

うわ!おるおる。

ご老人ドライバーもけっこういるではないか!

握るハンドルと座席が極端に近い。前をずっと凝視して明らかに周りが見えていない!なんかフラフラしているし!子どもたちはあなたの視界に入ってますか?

通学路に物申す!

これはアカン。さっそく学校の担当者に伝えてみた。

井元
井元

あそこの道、ちょっと危なくないっすか?今朝子どもたちと一緒に歩いたんですけど、いつ事故が起きてもおかしくないっすよ!もう1ブロック先を左折すれば、ずっと歩道がある道っす。集団登校のルート、そっちに変更したほうがいいと思うんですけどどうっすか?

担当者
担当者

あ~それはちょっとできないですねぇ

井元
井元

え?なぜ?

担当者
担当者

はい、あのルートが決まりなんで

は?決まり?

井元
井元

え~と、その決まりとやらをなんか申請して変更するばいいのかな。なら、私やりますよ

担当者
担当者

いえ。昔から、通学路はこのルート、と決まってるんで変えられないです

集団登校は誰のため!?

そこからもずっと、決まりなんで、決まってるんで、決まりがあるので、の一点張り。なんだその決まりとやらは。私が知らないだけで、もしかして日本国憲法よりランクが上なのか。

そのうち私のほうもだんだんと説明するのがどうでもよくなってきた。担当者にはそもそも子どもたちの安全を考える気がないのだ。私と意見が合うはずがない……。

ただ、決まっている通学路のルートを守りたい……

担当者のそのぶれない姿勢は見事としか言いようがない。保護者の意見を全然聞いてくれないよ~。

なんだ。集団登校って子どもたちの安全のためにあるのではないのか。本来は「子どもたちの安全を守りたい」であるはずよ!?

学校の、対外的にやってますよ、という姿勢がよくわかったので、娘の集団登校はその後数日でやめてしまった。

関わる以上、学校には努力義務がある

入学前に参加した説明会でもらったプリント『集団登校について O小学校/PTA』にはこうも書いてあった。

「登校中の事故の責任は、事故の当事者にあります」

まあ、そうだろう。異議はない。ましてや、学校に責任があるとは思わない。

ただね、集団登校のルートは、学校が決めたルートなのよ。ということは、少なくとも、学校は子どもたちの安全に気を配らなければならない。

決まりだから変更できない!?

それは、子どもたちの安全を放棄している、と同義語だ。私は、集団登校というシステムのここに違和感を覚えるのよ。

もし、そのルートで事故が起きたなら、それでも学校に責任はないという。

否!

直接的責任はないが、少なくとも、危険と認識しながらここを通学するよう指定した責任は生じるでしょ。

学校・PTA名義で集団登校を推奨している以上、つねに子どもたちの安全を主体におく責任があると思うの。事故が起きたらあとは知りません、という認識ではだめ。決まりのために安全を置き去りにするくらいなら、最初から推奨すべきではないのよ。

子どもの死因上位に交通事故

子どもの交通死亡事故って実際どれくらいあるのだろう、と思い、子どもの死因の上位を調べてみた。

年齢別に多い死亡事故の割合詳細順位1~5位
厚生労働省「人口動態調査」を基にしたこども家庭庁の資料からお借りしました。

『交通事故』は2歳以上で全て1位……。

交通事故で亡くなる子どもの割合はこれだけあるのよ。そこにリスクがあるのなら、私たち大人が対応していかなくちゃいけない。決まりだから、とか、めんどくさいから、とか、ましてや学校が逃げちゃ絶対だめだ。

学校が子どもたちの安全に配慮をしなくなったらね……もうその学校に存在意義はなくなるよ。

引率する班長の6年生のこと……

そしてもうひとつ、集団登校について、どうしても気になることがあるの。引率する班長の6年生のこと。

もし登校中に事故が発生した場合。たとえば下級生が車に接触したりひかれて大ケガ・死亡した場合。班長の子どもはどう感じるのだろうか。ということ。

前述のプリント『集団登校について O小学校/PTA』にはこうも書いてあった。

「登校中の事故の責任は、事故の当事者にあります。班長は事故に対して責任はありません

書いてあることは間違いではない。でもそれはあくまで法律的な見解であって、はたして現実的にはこんなに簡単に気持ちの整理がつくだろうか。

教職員が「班長は誰だったの?」と発言するかもしれない……。
事故に遭った子どものことに動転した班長の親が「あんたぁ!なんでしっかり見てあげなかったのよ!」とわが子についきつく言ってしまうかもしれない……。
班長は(僕/私がしっかりしていれば事故は起きなかったかも……)とあとから自分を責めるかもしれない……。

法律的に班長に責任はなくとも、6年生の心に深い傷を負わせてしまうことにならないだろうか。
まだ幼い子どもがこれからずっと自分を責めることにならないだろうか。

私はこのことが気になってならない。集団登校というシステムにはそういうリスクもあると思う。

もし事故が起こってしまった場合、ひとりの6年生の班長が、本来背負わなくてもいいモノを、もしかしたら一生背負ってしまうかもしれない、と思うと、私は子どもたちだけの集団登校に対してどうしてももろ手を挙げて賛成と言えないのだ。

プリントにわざわざ「班長は事故に対して責任はありません」と書いてあるところに、そういう状況になってしまう恐れがある、ということを物語っている。実は、学校・PTAは認識しているのだと思う。

通学の安全に常に配慮たれ

あれから2年。娘は2年生になった。毎日私が車で学校に送っている。いろいろ考えた結果、これが一番安全。私の運転で事故が起きる確率よりも、ご老人が登校の列に突っ込んで大ケガ・死亡のリスクのほうが断然高い。

それと、学校が安全に配慮していないとわかった今、集団登校で通わす選択肢は残念ながらなくなった。

もしあのまま歩道のない通学路を通わせて、万が一娘が交通事故に遭ったなら……。加害者、学校、PTAと私はいろんな人を恨んでしまうかもしれない。もしかしたら班長の子どもにさえ……。それだけはいやだ。私の運転での事故なら私ひとりの責任だ。

子どもたちの安全に配慮していない集団登校なんて、私は反対だ。でも、集団登校があって助かっている、という保護者がいることも知っているから、なくそう!、とは言わない。

ただ、子どもたちの通学の安全は、決まりとかではなく、つねに配慮して改善していくべきであれ、と思う。

あの歩道のない狭い道は、今もまだ通学路のルートのまま。子どもたちの列のすぐ横を今日も車が走り抜けている。

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