子育てをはじめたばかりの新米パパだったころ、戦々恐々としていたことがある。それは、スーパーのお菓子売り場やおもちゃ屋で、泣き叫びながら訴えている子どもを見たときのこと。
「これかってぇ~!」「ほしい~」
対象物は、ねるねるねるねやチョコレートなどお菓子だったり、かわいいアクセサリーやアンパンマンのエレクトーン、トミカだったり。
宝物を見つけた!とばかりに目を輝かせて親の元へ駆け寄り、訴えるのである。
親は来た来た!とばかりに、すかさず「ダメ!」「買いません!」
その場で「かって!かって!」と周りなどおかまいなしにひっくり返ってのたうち回る子ども。お菓子売り場とおもちゃ屋の床は、彼らの服でいつもピカピカである。
もし自分の子どもが床にひっくり返ってわめいたなら……親としてこれはけっこうキツい。
子を持てば、誰もが通らなければならない試練なのだろうか……?
おんぶ紐に抱かれスヤスヤと眠るまだ幼いわが子(0歳)を見て(うちの子もそのうちこんなふうになるのか……)と身震いしたものである。
「これかって」星人、誕生
それから数年後、娘は順調に育ってきた。そしてもれなく「これかって」星人となった。
ゆめタウンに行けば「これかって」「これほしい!」
うっかり、おもちゃのあおきに寄ろうものなら最悪である。もう離れない。しかもたくさんの宝物を前に目移りしてテンションMAX、ちょっと挙動不審になっている。
「とうちゃん!これほしい!いやあれも、えっとえっと……アンパンマン!」
若干パニくっている。おもちゃ屋はヤバい。子どもにとっては天国だが、誕生日やクリスマス以外の日に行ってはならない。
パパ・ママには共感していただけると思うが「これかって」に付き合っていると本当にキリがない。
娘のことは目に入れても痛くないほどかわいいが、毎度毎度同じやりとりを繰り返すのは、正直超めんどくさい……。
ただ、娘本人は本当に欲しくてただ心底訴えているだけ。それを「はいはい、買わないよ~」「ダメだよ~」とテキトーに受け流して、最後には「ほら帰るよ~」と半分引きずるように店を後にするのは、さすがにちょっとかわいそうになってきた。
なんとかこの不毛なやりとりをなくし、なおかつ「これかって」と言わせないような円満ないい策はないのだろうか。
井元は考えに考えた!
その結果、ついにナイスな案を発見したのである!ということで、今回は「これかって」にうんざりしているお父さんお母さんに共有したいと思う。ぜひ読んでみてほしい。
余談だが「欲しいのはどれね?これかね?ええよええよ、こうちゃるこうちゃる」とかわいい孫のためなら、いくらでも銭をばらまくおじいちゃんとおばあちゃんは対象外である。
欲しいものがあったら自分のゼニで買え
妻といろいろ考えて、そうだ!おこづかいをあげればいいじゃないか!、という結論になった。『カネを与えてしまえ、欲しいものがあったら自分のゼニで買え』作戦。
小2に毎月お金をあげるの!?
まだおこづかいとか早いんじゃない?
当時パパ・ママ友や親戚からいろんな意見をちょうだいしたが「金融教育の義務化の先取りです」とばかりに強行突破した。
娘は毎週ピアノと英語を習っていたから、習い事をひとつやったらおこづかいとして100円を渡すことにした。それぞれ週一回通っていたから、一週間で200円。一ヶ月で800円だ。
お~、小2にしちゃあ、まあまあな金額じゃないの。
「ほしいものがあったら、自分で買うんだよ」と説明をする私の言葉に、選んだばかりのかわいいポケモンの財布をのぞきこみ、キラキラの100円玉をながめて、うなずく娘。ちょっと得意げである。
らいしゅう、またくる!
「とうちゃん、これかって!」
ついにこの日がやってきた!これまでは反射的に「ダメだよ」と言ってしまっていたが、今日からは違う。
「どれ?いくらなの?」
「え~と……400円!」
「おこづかいで買えるかな?」
あ!そうだった、と思い出した娘が急いでリュックサックをあけてポケモン財布を取り出す。
「……200円。かえる?」
まだ暗算ができないが、なんとなく金額不足を悟って悲しそうな娘。
「あと200円足りないね。ピアノと英語をあと1回ずつやったら200円だから、買えるよ」
そっか、と喜ぶ娘。
「らいしゅう、またくる!」
わが家の金融教育
大成功である!「これかって」星人ではなくなったーーー!
私たち夫婦のストレスが一気に解消。
それからは、ほしいものがあったらまずは値札を見て教えてくれるようになった。そのうち、これは買えそう、これは高い、がわかってくるようになってきた。
あるときアンパンマンのおもちゃの値札を見て「4,000円!とうちゃん、これたかいわ!」と店内で大声で叫んだのには思わず噴き出した。(おもちゃのあおきさん、ごめんなさい)
これは立派な金融教育ではないか!わがことながら素晴らしい。
おこづかい、へっちゃった……
ただ失敗もあった。
ある日、小さな電卓とプッシュポップがひとつになったキーホルダー見つけて「これほしい!」となった娘。値札を見ると「990円(税込)」
いや、高いじゃろ……。
サイズにして子どもの手のひらにおさまるほどだし、なんかちゃっちい。どう見てもこれで990円は高い。町中華なら定食ランチが大盛りで食えるぞ。
しかし、娘はというと、手持ちがあるかどうかに心を奪われて、私の「高いわ」が耳に届かない。そもそも、商品に対してまだ値段感覚が養われていなかった。
急いで財布を開けると1,000円あった。先日両替したかった私がジャラジャラたまった100円玉と引き換えに渡したピカピカの紙幣、千円札だ。
「とうちゃん、買える……!」
マジか!買うのか
せっかく貯めた千円をこんなんにつぎ込むなんてやめとけ、と言いたくてしょがなかったが、私たちの間にはルールがあった。
娘がおこづかいをどう使おうが口を出さない
要は「かいたい」「ほしい」という好きなものを買うためのおこづかいである。そして、親として、自分で責任を持ってお金の管理をやってほしい、という願いを込めてルールを決めたのだが、しまった、裏目に出た。
レジでお金を払って、うれしそうにプッシュポップ付き電卓を手にする娘。帰りの車内でしばらく遊んでいたが、家に着くころには飽きてしまっていた。その夜、
「とうちゃん、おこづかい、へっちゃった……」
買うんじゃなかった、とあきらかに後悔している娘。
「いいかい?モノにはだいたいの相場っているのがあってね、見てみな、側はプラスチックでできているね。中に小さな電池が入っているとはいえ、ほかのプラスチックのおもちゃと比べても990円は高いじゃろう?買うときは比べてみることも大事だぞ」
コクンコクンとうなずきながら聞いている。
それからは、収支のバランスを考えるようになった娘。おこづかい帳をつけ始めたのもよかった。ガチャガチャの200円くらいならいいけど、500~1,000円を超えるようなモノだと、習い事を何回かやらないといけない、たまるまでガマンしないといけない、など、体感的にわかるようになってきたようだ。
駄々っ子からプレゼン上手へ!娘の交渉力
娘は、キャラクターバスボールが大好き。バスタブに入れると回りの入浴剤が溶けて、中からポケモンやアンパンマン、動物のフィギアが出てくるアレだ。

ドラッグストアで見つけた娘が「おとうちゃん、これほしい!」
僕「おこづかいは今いくら?」
娘「200円……」
僕「バスボールは400円じゃけ足らんね。次の習い事のあとにしようか」
娘「え~!」
ただ、駄々をこねるだけなら取り合わないつもりだったが、娘、なんとプレゼンをしてきたのである!
- 今買わないとすぐ品切れになってしまうこと。(実際ポケモンは一度売り切れてしまってそれ以来入荷していなかった)
- このフィギアは可動式でなかなか他にはないこと。
- これを買ったら、おこづかいがたまるまでガチャガチャや漫画などはガマンすること。
購買のタイミングや商品PR、今後の約束などを自分なりに必死にアピールしてきたのである。お金は足らないけどあたしに投資して、とばかりに。
常日頃から、お金はもらうものではなく稼ぐものだ、と娘に教えたかった僕は感動してしまった。おこづかいの中でやりくりをするだけではなく、ほしいものがあったら親を納得させて金を出させる。これを教えたかったのだ。
なぜほしいのか?
なぜ今なのか?
それを買うと自分にどんなメリットがあるのか
お金を出す父にどんなメリットがあるのか
おこづかいのプレゼンである。
以下やりとり。
「400円なら自分のおこづかいで買えるでしょ?」
「こないだ、おもちゃをかったから、今はたりない!」
「じゃあ、習い事をあと2回やってためたら?」
「いつもポケモンのバスボールは売り切れなの!でも今日はあるの」
「でもお金が足りないなら、また今度来たときに買うしかないでしょ」
「あたしはウォンツ(ドラッグストア)にくるとき、ぜったい見るけど、ポケモンがあるのははじめてなの!売り切れたら、もうなくなるかもしれん!」
必死な娘にちょっといじわるをしてみたくなった。
「でも、父ちゃんが買ってあげても、父ちゃんにはメリットがないなぁ」
「でも、あたしがお風呂であそびたい」
「お金がないのはおまえがおもちゃを買ったからだよね。父ちゃんが買ってあげたら次もまた同じことを頼むよねぇ?」
う~んと考えこむ、娘。
「わかった!とうちゃん、おかねかして!ピアノと英語をやってためたら返すけえ!ポケモンは今じゃないとなくなる」
素晴らしい!エクセレント!マーベラス!グッド!
途中であきらめずによくがんばった!
「よし!わかった。じゃあ、父ちゃんが200円を出すから、おまえのおこづかいと合わせて買いな」
娘のうれしそうな顔ったら。必死に勝ち取ったもんね。もちろんその日のお風呂は大はしゃぎ、出るときには大事そうにフィギアを片付けていた。
そうだ、お金は稼ぐものだ!
投資してもらったり調達することも大事だ!
そのためのプレゼン、素晴らしかった!
子どもにお金をまかせる大切さ
「これかって」を回避するためにおこなった『カネを与えてしまえ、欲しいものがあったら自分のゼニで買え』作戦。いかがだっただろうか。
結果、なかなかGoodな金融教育になったように思う。「これかって」にうんざりしているお父さんお母さんがおられたら、ぜひ試してみてほしい。
自分でお金を管理していけば、身の回りのモノの見方も変わってくるだろう。視野が広くなるかもしれない。もちろん失敗もすることもあるだろうけど、生きていくにおいてお金はずっとついて回るもの。
私たち夫婦で見守りながら、これからも本人に勉強をさせていきたいと思う。
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